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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)86号 判決

原告

藤沢明哲

被告

伊藤八郎

右訴訟代理人

尾崎嘉昭

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1項のうち、売主がユニチカであることを除いたその余の事実(原告が、昭和四八年七月二〇日、(二)の土地を買い受けたこと)は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、ユニチカ興発は、(一)の土地をユニチカより買い受けたのちその上に本件マンシヨンを建設し、同土地をマンシヨンの区分所有者全員の共有(買主の共有持分は、マンシヨンの専有部分の床面積の総合計に対して買主が取得する専有部分の床面積の割合による。)として本件マンシヨンの分譲をしたこと、マンシヨン(建物)自体の保存登記は買主において行い、土地の移転登記は元の所有者のユニチカより買主へ直接することとし、原告もユニチカ興発より土地付本件マンシヨンの分譲を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

二請求原因2項は当事者間に争いがない。

三〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

ユニチカ興発は、本件マンシヨン売出し(分譲)の際、付帯設備として(一)の土地の一画に駐車場を設け、右マンシヨンの分譲とは別個に右駐車場についての専用使用権を一台分四〇万円で分譲することとし、マンシヨン購入者の中から希望者を募つて抽選により右駐車場専用使用権の購入者を決定する方法をとつたこと、その際、ユニチカ興発は右の内容を宅地建物取引業法三五条に基づく重要事項説明書に記載し、これと駐車場の位置、面積をも明確にした書面とを合わせて買主全員に配布したこと、更に、買主はユニチカ興発より右駐車場専用使用権を承認する旨を契約の内容とする「土地付区分建物売買契約書」(第一〇条―専用使用の承認 2、買主は土地の一部に番号を付し区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるもの及びその譲受人に対し、その専用使用を承認するものとする。)の配布を受け、右内容を承知のうえマンシヨンの分譲を受けたこと、

そして、被告は、昭和四八年七月三一日、ユニチカ興発より本件マンシヨンの区分所有権と(一)の土地に対する共有持分権を取得すると同時に本件土地についての駐車場専用使用権を代金四〇万円で買い受けたこと、又、原告も右説明書や売買契約書等の内容を承知のうえ本件マンシヨンの分譲を受け、駐車場専用使用権の購入をも希望したが、抽選にもれたため購入できなかつたこと、

以上のとおり認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上によれば、ユニチカ興発は(一)の土地の一画に駐車場を設営し、右駐車場を専用使用する権利を分譲する権利を留保したうえ本件マンシヨンを分譲し、原告は他の買主同よう右の事情を承知したうえマンシヨンを購入し、購入後は右専用使用権を購入した者及び右購入者から更に取得した者が駐車場を専用使用することを容認することをも承認してユニチカ興発との間で土地付マンシヨン購入契約を締結し、被告は本件マンシヨンの分譲を受けると同時に本件土地についての駐車場専用使用権をも取得したということができる。

四原告の再抗弁について

(一)  原告は、本件約定は、原告の所有する土地を無償で永久に使用制限する反面、売主であるユニチカ興発や駐車場使用者(被告)に多額の利益を得させるものであつて、公序良俗に反し無効である旨主張する。

確かに、〈証拠〉によれば、本件マンシヨンの買主は、駐車場専用使用権を取得しなかつた者でもすべて駐車場をも含めた(一)の土地全体につき所有者として自己の共有持分の割合に応じて固定資産税を支払つていることが認められるから、原告のように駐車場専用使用権を取得しなかつた買主は、一方においては所有権者として納税の義務を負担しつつ、他方において所有権の一機能である土地の使用権を失つているということができる。

もつとも、被告は、駐車場専用使用権の対価の取得は、マンシヨン自体の売価とを総合的に考えた売主の販売政策の自由によるところであり、原告のように駐車場専用使用権を取得しなかつた買主は、右使用権という負担付の分だけ割安で本件マンシヨンの分譲を受けている旨主張し、ユニチカ興発の不動産部長である証人三木山治も右主張に沿う証言をしている。しかし、同証人自身右主張、証言を具体的に裏づける説明を何らせず、かえつて同証人の証言によれば、ユニチカ興発には、本件マンシヨン分譲について右被告の主張を具体的に裏づける資料や根拠となる書類が存在しないことが認められるのであり、従つて、被告の右主張に沿う証人三木山治の前記証言を直ちに信用することもできない。そうしてみると、本件マンシヨンの売主であるユニチカ興発は、(一)の土地を買主に通常の価格で売り渡しながら、更に同土地上に駐車場を設営し、右駐車場についての専用使用権の分譲対価を取得し、実質的には二重に土地の処分対価を得ているのではないか、即ち、本件約定により原告は土地所有権の一機能である使用権を何らの見返りなしに失う反面、売主であるユニチカ興発は駐車場専用使用権の分譲価格分だけ不当に利得するという結果をもたらすのではないかという疑いが残る。現に、〈証拠〉によれば、本件約定に基づく駐車場専用使用権の分譲(以下、分譲方式という)には、右で述べたような疑問等があるとして、大阪府建築振興課や日本高層住宅協会はマンシヨン分譲業者に対し、できるだけ右分譲方式をやめ賃貸方式(土地を共有するマンシヨン買主全員が駐車場を利用者に賃貸し、賃料は管理費に組み入れるという方式)をとるよう指導、要望し、昭和四九年以降においてはその殆んどが賃貸方式となつていることが認められるのである。

しかしながら、前記のとおり、原告は本件約定の存することを知りつつ本件マンシヨンの分譲を受けただけでなく、まさに問題となつている駐車場専用使用権を取得すべく応募したもののたまたま抽選にもれたため右権利を取得しえなかつたものであるうえ、右権利を取得した者は対価の四〇万円を売主に支払う外月々約五〇〇円程の費用をマンシヨン管理費として納入している(このことは証人三木山治の証言により認められる。)から、少くとも右権利の取得者と非取得者との間では実質的不平等は認められず、又、(一)の土地のうちに占める分譲駐車場の面積は約二割程にすぎない(このことは証人茨木耕作の証言により認められる。)のみならずマンシヨン分譲に関しての規制法である建物の区分所有等に関する法律が敷地利用権については七条で区分所有権売渡請求権を規定しているだけにすぎず、(このことは当裁判所に顕著な事実である。)、不備であるとの指摘を免れないこと等をも合わせ考えると、本件の分譲方式が好ましい方法であるとはいえないにしても、本件約定をもつて直ちに公序良俗に反し無効であるとまでは未だ認めるに不十分である(本件約定を有効と解しても、専用使用権を取得した者が永久に駐車場を使用できるとは限らない。規約に駐車場についての定めがあれば規約を改正することにより、規約に定めがなければ共有物管理の法理により右駐車場を廃止することができないことはない。)

(二)  原告は又、本件約定は、物権法定主義に反し無効である旨主張するが、被告の本件駐車場専用使用権をもつて、原告をはじめとする他の区分所有者との共有地に対する用役物権と解さねばならない必然性も認められないから、右原告の主張は理由がない。

(三)  更に、又原告は本件駐車場専用使用権は実態が所有権であるから、その移転は原告に対抗しえないと主張するが、仮に、右使用権の実態が所有権に近いものであつたとしても、そのことから直ちにその移転が原告に対抗しえないなどとは到底いえないから、右の主張も理由がない。〈以下、省略〉

(鈴木敏之)

別紙〈省略〉

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